2012年6月5日火曜日

カトリック教会からの政策提言集

フィリピンの新聞における教会関係の記事のチェックをする中で、4月のManila Bulletinの記事で、カトリック司教協議会の社会活動のための全国事務局(NASSA)の事務局長ブロデリック・パビリオ司教と彼の関わる運動である99%運動(Kilusang 99%)が踏み込んだ政策提言をしていることに気付いた。元になる声明を探したが見つからないので、新聞記事に基づく紹介をしてみたい。

'Dead End' For Straight Path

カトリック教会の高位聖職者の声明における政策論は、あまりに総論的であるか、道徳原理を出ないものであるか、単独のイシューに関するものか、教会の教義に関わるような特定のイシューについてか、ということがほとんどであるので、今回の声明は注目に値すると考える(が4月の記事を今頃見ているという遅れは克服しなくては…)。

今回の声明は14もの項目を挙げている。それらを確認すると、

1.農地改革、原住民保護、漁民の権利保護、都市貧困者の住宅確保などに関する法の完全履行
2.労働者優先の政策(労働者の権利、適切な収入、雇用期間の保障、福利厚生など)
3.環境保護及び消費者保護のための、企業に対する規制強化
4.基礎的な公共サービスを債務返済より優先すること、また不正・不道徳な債務の除去
5.水、電力、教育、保健などの基本サービスの確保:市場依存への警告とコミュニティによる公共財管理の模索の提案
6.和平交渉を最優先し、軍事的解決を優先せず、長きにわたる根本問題を明示し、多文化の平和共存の道筋をつくること
7.税制上の抜け穴をふさぎ、適切な課税を導入し、反貧困プログラムの資金を捻出すること、その資金が富裕者に流れないようにすること
8.国家予算決定過程・執行過程への市民社会の参加を制度化すること、及び情報自由法の成立によって市民が公務員をモニターし説明責任を問えるようにすること
9.環境保護に資する起業や技術への支援、気候変動の影響を被っている人々の支援、環境破壊の防止
10.グローバル化のマイナスの影響に対応するためにセイフティネットを用意すること、公正な交易ルール・交易慣行を促進すること
11.司法に則らない殺害(私刑)や失踪がまかり通る状況に対し、徹底した捜査、実行犯の訴追、十分な商人保護の提供を通じて、今後そのようなことがまかり通らない状況に変えていくこと
12.工業化を推進して雇用を創出し、輸出志向型開発政策への依存に変えて自立的な経済を促進すること
13.プロフェッショナリズム、誠実さ、実績主義、適切な報酬に基づく土台のしっかりした公務員形成に努めること
14.地位やコネに左右されることなく腐敗した公職を訴追すること

まだまだ総花的であるとはいえるかもしれないし、個別の項目についての賛否もあり得るだろうが、実際的な政策立案、改革への方向性のある枠組みを一応提示できているということはできるのではないか。

むろん教会指導者は第一義的には宗教家であり、教会として共通の政策枠組みにコミットすること自体には限界があるだろう。しかしフィリピンにおける「多数派宗教」である教会の指導者層が道徳的権威を理由に政治にかかわるとしたら、ある程度政策に通じた人々の知恵を借りている、という背景があってこそ責任のある関与となりうるであろうと、個人的には考える。

これまではあまりその辺がはっきりしていなかったし、その背後には政治における公共の利益とは別の動機がかなり強く働いていたことは明らかで、それが私があちこちで書いてきたことであった。教会の中には矛盾した態度への説明責任の足りない教会指導者の政治関与に異議を唱える声はあったが、それを受けた、一貫した政策態度を目指す議論の成熟が見られることはあまりなかった。今後どうなっていくか、注目する必要があるのではないか。